次の担当者にも残せる「専用スキル」を作った話です。

「また返戻か……」
離職票を提出して数日後、
ハローワークから連絡が来るたびに、胃が重くなる。
特に、同じ手続きで何度も返戻されたときは本気で落ち込んだ。
基礎日数の見方が違う。
賃金算定対象期間がズレている。
ハローワークの担当者から電話で説明されても、
その場では半分くらいしか理解できない。
1件の手続きに3〜4時間かかることもあった。
提出期限に追われながら、夜遅くまで説明書と入力画面を行ったり来たりする。
私は伊那市の中小企業で総務・人事を担当している。
ただ、雇用保険や社会保険の手続きは、
もともと自分が中心で担当していた仕事ではなかった。
以前は経理課の担当者が対応していた。
ところが、その担当者が退職し、
雇用保険の取得届・喪失届・離職票の作成が私のところに回ってきた。
採用、給与計算、日々の問い合わせ対応に加えて、さらに新しい仕事が増えた。
正直、最初は「また仕事が増えた」と思った。
しかも、今まで自分でやってこなかった分、
ひとつひとつ調べながら進めるしかなかった。
一番つらかったのは「日付の考え方」

雇用保険の書類は、名前だけ見ると簡単そうに見える。
取得届。 喪失届。 離職票。
決まった欄に決まった内容を入れれば終わりそうに見える。
でも、実際は全然違った。
たとえば、
- 退職日
- 給与締め日
- 支払日
- 賃金支払基礎日数
- 離職票の賃金算定対象期間
このあたりが絡んでくると、急にわからなくなる。
たとえば、退職日が3月15日で、給与が月末締め・翌月10日払いだったとする。
離職票の期間は退職日から1ヶ月ずつさかのぼるのか、それとも締め日で区切るのか。
3月分の給与はどの期間に入るのか。
——ここで手が止まる。
「資格喪失年月日は退職日でいいのか」
「基礎日数はどの期間を見るのか」
「離職票の賃金算定対象期間は、締め日基準なのか、退職日基準なのか」
説明書や記入例はある。
でも、自分のケースに当てはめようとすると手が止まる。
e-Govは便利だ。
会社にいながらオンラインで申請できる。
でも、便利だから簡単というわけではない。
エラーが出れば原因特定に時間がかかる。
返戻されれば、また最初から確認し直しになる。
一度、手書きでハローワークの窓口に持っていったことがある。
その場で教えてもらえると理解できる。
でも、毎回窓口に行くわけにはいかない。
AIに聞いたのは「答え」ではなく「考える順番」
ある日、返戻対応をしながら思った。
「これ、AIに聞いていないな」
行政手続きだから、最初はAIに頼る発想がなかった。
でも、AIに申請を丸投げする必要はない。
正解を決めてもらう必要もない。
自分が混乱している入力画面を見ながら、
考える順番を整理してもらえばいい。
そこで、入力画面のスクリーンショットを使って、AIに聞いてみた。
私が使ったのは Claude Code(画面やファイルを見せながら相談できるAIツール)だ。
もちろん、個人名、住所、生年月日、社員番号、会社名、賃金額などは写さない。
個人や会社が特定される情報はすべて隠す。
見せたのは、入力欄の並び、日付を入れる部分、基礎日数に関係する箇所だけだ。
実際には、こんな感じで聞いた。
退職日は○月○日です。 給与締め日は毎月○日です。 支払日は翌月○日です。 添付の入力画面では、個人情報はすべて隠しています。 この画面の各日付欄に何を入れるべきか、考える順番を教えてください。 特に、基礎日数と賃金算定対象期間の見方を整理してください。
すると、AIがかなりわかりやすく整理してくれた。
いきなり「答え」だけを出すのではなく、
- まず退職日を確認する
- 次に給与締め日との関係を見る
- 対象期間を分ける
- 各期間ごとに基礎日数を確認する
- 入力欄ごとに、どの期間に対応しているか整理する
という順番で説明してくれた。
これが本当に効いた。
入力画面が、ただの欄の羅列ではなくなった。
「この欄は、この期間を見るためのものなんだ」
「この日付は、退職日ではなく締め日との関係で考えるんだ」
というふうに、画面の意味が見えてきた。
返戻対応が変わった
返戻が来た直後は、何が間違っているのかもわからない。
でも、AIにスクショと前提条件を伝えると、混乱していた要素が分かれていく。
退職日。 締め日。 支払日。 対象期間。 基礎日数。
どの欄にどの日付を入れるのか。
頭の中で絡まっていたものが、ひとつずつほどけていく。
その状態で、公式資料やハローワークからの指摘内容を見直すと、前より理解しやすくなった。
AIが申請してくれるわけではない。
最終判断をしてくれるわけでもない。
でも、「どこを確認すればいいのか」を整理してくれる。
専任ではない担当者にとって、これはかなり大きかった。
次回のために「専用スキル」を作ってもらった
一度やり方が整理できたあと、さらに思った。
「これ、次回も同じように使える形にできないだろうか」
そこで Claude Code に、今回の流れをもとに専用スキルを作ってほしいと頼んだ。
ここでいうスキルは、難しいものではない。
Claude Code には、手順書を覚えさせて毎回同じ流れで動いてもらう「スキル」という機能がある。
プログラミングは要らない。
「こういう手順で確認して」と言葉で頼めば、AIが自分でその手順書を作ってくれる。
退職日、給与締め日、支払日、退職理由などを言葉で入力すると、
AIが毎回同じ手順で考えて、
必要な日付や期間、基礎日数の確認項目を表にしてくれる仕組みだ。
つまり、毎回こう聞かなくてもいい。
「どこから考えればいいですか?」
「どの日付を見ればいいですか?」
「基礎日数はどこですか?」
前提条件を入れるだけで、AIが確認の流れを組み立ててくれる。
たとえば、こう入力する。
退職日:○月○日 給与締め日:毎月○日 支払日:翌月○日 退職理由:自己都合 この条件で、離職票作成時に確認すべき期間、入力日付、基礎日数の確認表を作ってください。
すると、AIが次のような形で出してくれる。
| 項目 | 確認すること | 今回見るポイント | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 資格喪失年月日 | 退職日を確認 | 退職日を基準に確認 | 入力欄の定義を確認 |
| 賃金算定対象期間 | 締め日基準で期間を整理 | 退職日前の対象期間を分ける | 締め日と支払日のズレに注意 |
| 基礎日数 | 対象期間ごとの日数を確認 | 勤務日数・欠勤・有給を確認 | 賃金台帳と照合 |
| 入力欄の日付 | 画面の欄と対象期間を対応させる | 各欄に入れる期間を整理 | 最終確認は公式資料で行う |
実際に使ってみると、全ての日付や確認すべき日数が一覧で出てきた。
もちろん、そのまま正解として使うわけではない。
最終確認は人間がする。
公式資料やハローワークからの指摘とも照らす。
それでも、毎回ゼロから考えなくていい。
これはかなり便利だった。
一番の価値は「次の人でもできる形」にできたこと

今回、一番大きかったのは、
AIで目の前の作業が楽になったことだけではない。
自分の頭の中にしかなかった理解を、
次の人でも使える形にできたことだ。
中小企業では、担当者が急に辞めることがある。
マニュアルが十分に残っていない。
前任者の頭の中にしかノウハウがない。
急に別の人に業務が回ってくる。
これは珍しくないと思う。
実際、私もそうだった。
でも、専用スキルとして形にしておけば、次の担当者も同じ流れで確認できる。
退職日と締め日などを入力すれば、AIが確認表を出してくれる。
入力画面のどこを見ればいいか、順番に整理してくれる。
ゼロから悩まなくていい。
私がいなくなっても、次の人が手順をたどれる。
これは中小企業にとって、とても大きい。
AIを使う価値は、作業を楽にすることだけではない。
属人化していた仕事を、次の人でも扱える形に残せること。
今回、それを強く感じた。
注意点は必ず守る
ただし、AIに何でも入れていいわけではない。
雇用保険の手続きには、個人情報や会社の機密情報が含まれる。
だから、スクショを使うときは、
- 個人名
- 住所
- 生年月日
- 社員番号
- 会社名
- 賃金額
こういった情報は必ず隠す。
必要なのは、個人情報そのものではない。
入力欄の意味や、日付の考え方だ。
AIの回答も、あくまで整理のために使う。
最終確認は、公式資料、ハローワークからの指摘、必要に応じて専門家の確認で行う。
AIは判断者ではない。 整理役として使う。
この距離感が大事だと思う。
もうひとつ、大事なことを書いておく。
雇用保険の手続きを、報酬をもらって他社の分まで作成・代行できるのは、社会保険労務士だけだ。
この記事は、自社の手続きを担当者として自分で行った記録であって、手続きの代行をお引き受けするものではない。
私がお手伝いできるのは「AIをどう使って自分の理解を整理するか」まで。
手続きそのものの判断や代行が必要な場合は、社会保険労務士に相談してほしい。
同じように悩んでいる人へ
専任ではないのに、雇用保険の手続きを任された人は多いと思う。
担当者が辞めた。 急に自分に回ってきた。
説明書を読んでも、自分のケースに当てはめられない。
返戻されるたびに、またかと思う。
伊那や上伊那の中小企業なら、なおさらだと思う。
総務がひとりで何役も兼ねていて、聞ける相手が社内にいない。
私と同じ状況の人は、この地域にたくさんいるはずだ。
まずは、個人情報を伏せたスクショと前提条件を用意して、AIにこう聞いてみるといい。
この入力画面の各欄は、何を確認する項目ですか。考える順番を教えてください。
退職日が○月○日、給与締め日が毎月○日の場合、基礎日数と算定対象期間の考え方を整理してください。
このやり取りをもとに、次回も使える専用スキルとして、退職日・給与締め日・支払日を入力したら確認表を出す形にしてください。
AIは魔法ではない。
書類を自動で完璧に作ってくれるわけでもない。
でも、一人で抱え込まなくていい状態は作れる。
返戻はまだ完全になくなったわけではない。
それでも、以前より確実に迷う時間は減った。精神的な負担も軽くなった。
そして何より、次の担当者に「まずこれを使って確認して」と渡せるものができた。
それが、今回いちばん大きな成果だった。

